山田さん(仮名・60代男性)は、数年前に心房細動に対するカテーテルアブレーション治療を受けました。治療前は頻繁に起こる動悸発作に悩まされ、好きなゴルフも満足にできない状態でした。アブレーション治療によって、激しい発作は劇的に減少し、日常生活の質は大幅に改善されました。しかし、完全に不整脈が消えたわけではなく、時折、期外収縮のような軽い動悸を感じることがあり、術後しばらくはその度に「また悪化するのではないか」と不安に駆られたと言います。当初は、アブレーションを受ければ不整脈とは完全に縁が切れるものと期待していたため、わずかな症状でも大きな落胆を感じてしまいました。しかし、担当医との定期的な診察の中で、アブレーション治療の目的は必ずしも「完治」だけではなく、症状をコントロールし、生活の質を維持することも重要な目標であること、そして現在の状態は十分にコントロールされている範囲内であることを繰り返し説明され、次第に気持ちの整理がついていったそうです。山田さんは医師の指導のもと、生活習慣の見直しにも積極的に取り組みました。塩分を控えめにしたバランスの良い食事を心がけ、毎日30分程度のウォーキングを欠かさず行っています。以前は仕事の付き合いで多かった飲酒の機会も減らし、睡眠時間も十分に確保するように努めています。その結果、軽い動悸を感じる頻度もさらに減少し、精神的にも安定した日々を送れるようになりました。現在は、少量の抗不整脈薬と抗凝固薬を服用していますが、以前のように発作を恐れることなく、再びゴルフ仲間とのラウンドを楽しめるようになっています。「完全にゼロにはならなかったけれど、今の状態なら不整脈と上手く付き合っていける自信がある」と山田さんは笑顔で語ります。彼の経験は、アブレーション治療後の経過が必ずしも一様ではないこと、そしてたとえ何らかの症状が残ったとしても、適切な医療管理と自己管理によって、活動的で充実した生活を送ることが可能であることを示しています。大切なのは、過度に悲観的にならず、医師と密に連携を取りながら、自分に合った付き合い方を見つけていくことなのでしょう。周囲の家族や友人の理解とサポートも、こうした前向きな姿勢を支える上で大きな力となります。