激しい嘔吐や下痢で病院に行くと、「食中毒ですね」と言われることもあれば、「感染性胃腸炎ですね」と診断されることもあります。どちらも症状はよく似ていますが、この二つの言葉は、医学的に、また法律的に、どのような違いがあるのでしょうか。そして、病院での扱いに違いは生まれるのでしょうか。医学的に見ると、「食中毒」は、原因となる細菌やウイルス、あるいは毒素などが付着した「飲食物」を摂取することによって引き起こされる健康被害の総称です。つまり、原因が「食べ物」であることが特定、あるいは強く疑われる場合に用いられる診断名です。一方、「感染性胃腸炎」は、細菌やウイルスといった病原体が、何らかの経路(食べ物、人からの飛沫、接触など)で体内に侵入し、胃腸に炎症を引き起こす病気の総称です。つまり、感染性胃腸炎という大きな括りの中に、食べ物を介して感染した場合の「食中毒」が含まれる、という関係になります。例えば、ノロウイルスに汚染されたカキを食べて発症すれば「食中毒」ですが、ノロウイルスに感染した人の吐瀉物に触れて感染した場合は、食べ物が原因ではないため「感染性胃腸炎」と診断されます。しかし、臨床の現場では、この区別は必ずしも厳密ではありません。原因となった食べ物がはっきりしない場合や、原因がウイルスで人から人へも感染するような場合は、包括的な診断名として「感染性胃腸炎」が使われることが非常に多いです。病院での「治療」という観点からは、診断名が食中毒であれ、感染性胃腸炎であれ、基本的な対応に大きな違いはありません。どちらも、原因となっている病原体を特定し(あるいは推測し)、脱水を防ぐための水分補給と、症状を和らげる対症療法が治療の中心となります。ただし、「法律的」な観点からは、大きな違いが生まれます。医師が「食中毒」であると診断した場合、食品衛生法に基づき、最寄りの「保健所」への届け出が義務付けられています。この届け出により、保健所は原因となった施設や食品の調査を行い、他の人への感染拡大(食中毒の集団発生)を防ぐための措置を講じます。もし、外食などが原因で食中毒になった場合は、この保健所への届け出が、後の補償問題などにおいて重要な意味を持つことがあります。患者さんにとっては、どちらの診断名でも受ける治療はほぼ同じですが、公衆衛生上は、「食中毒」という診断には特別な意味があるのです。