夜間の大きないびき、そして日中の耐えがたい眠気。これらは単なる「眠りが浅い」という問題ではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)という特定の睡眠障害のサインである可能性があります。そして、この睡眠時無呼吸症候群の診断と治療において中心的な役割を果たすのが、耳鼻咽喉科です。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気道(空気の通り道)が狭くなったり、完全に塞がってしまったりすることで、一時的に呼吸が止まる状態を繰り返す病気です。呼吸が止まると体内の酸素濃度が低下し、脳が覚醒反応を起こして呼吸を再開させようとするため、深い睡眠が得られず、睡眠の質が著しく低下します。この気道の閉塞の主な原因が、鼻や喉(のど)の構造的な問題にある場合が多いため、耳鼻咽喉科が専門となるのです。例えば、鼻中隔弯曲症(鼻の左右を隔てる壁が曲がっている状態)やアレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)などによる鼻詰まりは、口呼吸を誘発し、気道を狭くする原因となります。また、扁桃肥大(のどちんこの両脇にある扁桃が大きいこと)やアデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織の肥大)、舌根沈下(睡眠中に舌の根元が喉の奥に落ち込むこと)なども、気道を塞ぐ直接的な原因となります。耳鼻咽喉科では、まず問診でいびきや無呼吸の状況、日中の眠気の程度などを詳しく聞き取ります。その後、鼻や喉の状態を視診や内視鏡検査で詳細に観察し、気道が狭くなる原因となりうる構造的な異常がないかを確認します。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)という専門的な検査を行います。これは、睡眠中の脳波、呼吸、心電図、血中酸素飽和度などを記録し、無呼吸の回数や程度、睡眠の深さなどを総合的に評価する検査です。この検査結果に基づいて、睡眠時無呼吸症候群の重症度を診断し、治療方針を決定します。治療法としては、CPAP(シーパップ)療法と呼ばれる、睡眠中に鼻マスクを装着し、持続的に空気を送り込むことで気道の閉塞を防ぐ治療が一般的ですが、原因によっては手術(扁桃摘出術や鼻中隔矯正術など)が選択されることもあります。また、マウスピース(口腔内装置)の作成を歯科医に依頼することもあります。いびきや日中の眠気に悩んでいる方は、ぜひ一度耳鼻咽喉科で相談してみることをお勧めします。