リンパ浮腫は、リンパ液の流れが悪くなることで発症しますが、その原因は様々です。大きく分けて、生まれつきリンパ管の発達が不完全なために起こる「原発性(一次性)リンパ浮腫」と、何らかの原因で後天的にリンパ管やリンパ節が損傷されたり、機能が低下したりすることで起こる「続発性(二次性)リンパ浮腫」があります。そして、この続発性リンパ浮腫の最も大きな原因の一つが、がん治療です。がん治療の中でも、特にリンパ浮腫を引き起こしやすいのが、手術によるリンパ節の切除(リンパ節郭清:かくせい)と、放射線治療です。がんは、進行するとリンパ節に転移することがあるため、がんの種類や進行度によっては、がん細胞が転移している可能性のある周囲のリンパ節を、手術で広範囲に切除する必要があります。リンパ節は、リンパ液をろ過し、体内に細菌や異物が広がるのを防ぐ関所のような役割を果たしていますが、同時にリンパ液の流れ道でもあります。そのため、リンパ節郭清を行うと、その部位のリンパ液の流れが著しく悪くなり、リンパ液が溜まってむくみ(リンパ浮腫)が生じやすくなるのです。特に、乳がんの手術(腋窩リンパ節郭清)、子宮がんや卵巣がん、前立腺がんなどの婦人科系・泌尿器科系のがんの手術(骨盤内リンパ節郭清や鼠径リンパ節郭清)は、それぞれ腕や足のリンパ浮腫のリスクが高まります。また、放射線治療も、リンパ管やリンパ節にダメージを与え、線維化(組織が硬くなること)を引き起こすことで、リンパ液の流れを悪化させ、リンパ浮腫の原因となることがあります。手術と放射線治療の両方を受けた場合は、さらにリスクが高まります。がん治療によるリンパ浮腫は、治療後すぐには現れず、数ヶ月から数年、あるいは十年以上経ってから発症することもあります。そのため、がん治療を受けた方は、リンパ浮腫の初期症状(腕や足のだるさ、重さ、むくみ感など)に注意し、異常を感じたら早めに主治医や専門医に相談することが重要です。