境界型糖尿病の最も厄介で、そして最も危険な特徴。それは、「自覚症状がほとんどない」ということです。本格的な糖尿病になると現れる、「喉が異常に渇く(口渇)」「頻繁にトイレに行きたくなる(頻尿)」「食べているのに体重が減る」といった典型的な症状は、境界型糖尿病の段階ではまず現れません。多くの人は、普段の生活で何の変化も感じることなく、健康診断で数値を指摘されて初めて、自分の体が危険な状態にあることを知るのです。なぜ、症状が出ないのでしょうか。それは、境界型の段階では、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが、まだ完全には破綻していないからです。インスリンの効きが悪くなったり(インスリン抵抗性)、分泌量が減ったりしてはいるものの、体はなんとか頑張って、血糖値が異常な高値にならないようにコントロールしようとしています。そのため、高血糖による明確な症状として現れるほどのレベルには至らないのです。しかし、自覚症状がないからといって、体の中で何も起きていないわけではありません。正常な人よりも高い血糖値、特に食後の血糖値の急上昇(血糖値スパイク)は、水面下で静かに、しかし確実に、あなたの血管を傷つけ始めています。高血糖は、血管の内壁を傷つけ、そこにコレステロールなどが付着しやすくなることで、動脈硬化を促進します。これは、将来的に心筋梗塞や脳梗- 速といった、命に関わる重大な病気を引き起こす、最大の危険因子です。つまり、境界型糖尿病は、症状がないままに、動脈硬化という静かな時限爆弾のタイマーを進めてしまっている状態なのです。中には、食後に強い眠気を感じたり、なんとなく体がだるい、疲れやすいといった、非常に軽微で曖昧な症状を感じる人もいます。しかし、これらは他の原因でも起こりうるため、糖尿病のサインとして認識することは非常に困難です。だからこそ、自覚症状に頼るのではなく、定期的な健康診断で自分の血糖値やヘモグロビンA1cの値をチェックすることが、この「沈黙の病」を早期に発見するための、唯一にして絶対の方法なのです。症状がないから大丈夫、ではない。症状がないからこそ、怖い。それが、境界型糖尿病の本質です。