甘いものをよく食べる人でも、糖尿病とは無縁のように見える人がいます。その背景には、遺伝的な要因が大きく関わっている可能性があります。糖尿病、特に生活習慣病とされる2型糖尿病は、遺伝的素因と環境因子(食生活や運動習慣、肥満、ストレスなど)が複雑に絡み合って発症すると考えられています。遺伝的要因としては、まず、インスリンの分泌能力に関わる遺伝子が挙げられます。インスリンは、膵臓のβ細胞から分泌され、血糖値を下げる唯一のホルモンです。このインスリンを十分に、かつ適切なタイミングで分泌できる能力には個人差があり、その能力が高い人は、糖質を摂取しても血糖値が上がりにくく、糖尿病になりにくいと考えられます。逆に、遺伝的にインスリン分泌能力が低い人は、少しの糖質摂取でも血糖値が上昇しやすく、糖尿病のリスクが高まります。日本人は、欧米人に比べて、このインスリン分泌能力が低い傾向があると言われています。次に、インスリン感受性(インスリンの効きやすさ)に関わる遺伝子も重要です。インスリンが分泌されても、その働きを受ける細胞(筋肉や脂肪細胞など)の感受性が低いと、インスリンがうまく作用せず、血糖値が下がりにくくなります。これをインスリン抵抗性と呼びます。遺伝的にインスリン感受性が高い人は、少量のインスリンでも効率よく血糖値を下げることができるため、糖尿病になりにくいと考えられます。また、肥満に関わる遺伝子も間接的に影響します。特定の遺伝子変異を持つ人は、太りやすい体質であったり、内臓脂肪が蓄積しやすかったりする傾向があり、これらはインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病のリスクを高めます。これらの遺伝的要因は、あくまで「なりやすさ」に関わるものであり、遺伝的に糖尿病になりやすい体質だからといって必ず発症するわけではありませんし、逆に、なりにくい体質だからといって絶対に安心というわけでもありません。しかし、自分の遺伝的な背景を理解しておくことは、より効果的な予防策を講じる上で役立つかもしれません。